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cfd-lab:~/ja/posts/2026-05-15-peskin-ibm-di…online
NOTE #044DAY FRI CFD기법DATE 2026.05.15READ 4 min readWORDS 2,225#CFD#IBM#Immersed-Boundary#Peskin#Discrete-Delta#FSI

心臓弁を格子に刺さずに — Peskinの埋め込み境界法と離散デルタ関数

メッシュを切り直さずに物体を流体に入れる、その一行のトリック

1972年、Charles Peskin はコロンビア大学医学部で一つの難題と向き合っていました。拍動する心臓の中で弁は瞬間ごとに曲がり、膨らみ、閉じます。形が刻々と変わる表面のまわりに、どうやって格子を切るのか。毎時刻メッシュを切り直すのはほぼ不可能でした。Peskin の答えは単純です。格子には触らない。代わりに物体を点の集まりで表現し、その点が流体に力を流し込みます。今日は、その発想がどうやって一行の数式になったのかを追います。

1972年、Peskinが向き合った心臓弁#

心臓シミュレーションで最も厄介なのは格子でした。弁が動くと ALE(Arbitrary Lagrangian–Eulerian)で格子も追従させる必要がありますが、動きが大きく速すぎます。Peskin の発想は二つの座標系を完全に分離することでした。流体は固定した直交格子(Eulerian)で解き、物体は動く点群(Lagrangian)で表す。二つの座標系の橋渡しはディラックのデルタ関数 δ\delta が行います。

一行で書くと、

f(x,t)=ΓF(s,t)δ(xX(s,t))ds\mathbf{f}(\mathbf{x}, t) = \int_\Gamma \mathbf{F}(s, t)\, \delta(\mathbf{x} - \mathbf{X}(s, t))\, ds

ここで x\mathbf{x} は流体格子点、X(s,t)\mathbf{X}(s,t) はラグランジアンマーカー、F\mathbf{F} はマーカーが流体に与える力です。弁の形も動きも、すべて X(s,t)\mathbf{X}(s,t) という一つの関数に入ります。

メッシュを切り直さない#

問題はコンピュータです。コンピュータはディラックのデルタを直接扱えません。格子間隔 hh より狭い領域で無限大に立ち上がる関数は離散化できません。Peskin が導入したのは離散デルタ関数 δh\delta_h です。ディラックを幅 hh の滑らかな山に置き換えたものです。

二つの条件を要求します。

  • 全格子で重みの和がちょうど 1(0 次モーメント)
  • 重みと座標の積の和がマーカー座標に一致(1 次モーメント)

和が 1 は加える力が保存することを意味します。1 次モーメントはトルクがずれないことの保証です。この二条件だけで 4 点カーネルが一意に決まります。

離散デルタ — 一点を格子に広げる#

下のシミュレーションで実際に動かしてみてください。マーカーを格子の間のどこに置いても、重みの和は 1 のあたりに留まります。

Each bar is the weight δh(xi − xL) the Lagrangian marker hands to grid node i. The sum stays close to 1 by design — that is the zeroth moment condition.

2 点ハットから 6 点 Peskin カーネルまで、サポート幅が広くなるほど重みは滑らかに散らばります。滑らかなほど、マーカーが格子線をまたぐ瞬間に力が飛び跳ねません。これが IBM の時間振動が小さくなる理由です。4 点 Peskin カーネルが最もよく使われるのは、上記の二条件に加えて「重みの二乗和がマーカー位置に依らない」という第三の条件まで満たすからです。

閉形式では、

δh(r)={18(32r+1+4r4r2),0r<118(52r7+12r4r2),1r<20,r2\delta_h(r) = \begin{cases} \dfrac{1}{8}\left(3 - 2|r| + \sqrt{1 + 4|r| - 4r^2}\right), & 0 \le |r| < 1 \\ \dfrac{1}{8}\left(5 - 2|r| - \sqrt{-7 + 12|r| - 4r^2}\right), & 1 \le |r| < 2 \\ 0, & |r| \ge 2 \end{cases}

ただし r=(xixL)/hr = (x_i - x_L)/hxix_i は格子点、xLx_L はマーカー位置です。

直接強制 — 二つの矢印の往復#

二次元に移ります。円柱表面にマーカーを並べ、それぞれが no-slip 条件を流体に課すとします。各時間ステップで以下の四段階を繰り返します。

  1. 補間(E → L):格子速度 u\mathbf{u} をマーカー位置に引き寄せる。
Ul=i,juijδh(xijXl)h2\mathbf{U}_l = \sum_{i,j} \mathbf{u}_{ij}\, \delta_h(\mathbf{x}_{ij} - \mathbf{X}_l)\, h^2
  1. 力の計算:マーカーで望む速度 Uldes\mathbf{U}_l^{des} との差を時間スケールで割る。
Fl=UldesUlΔt\mathbf{F}_l = \frac{\mathbf{U}_l^{des} - \mathbf{U}_l}{\Delta t}
  1. 拡散(L → E):その力を格子に逆向きに撒く。
fij=lFlδh(xijXl)Δsl\mathbf{f}_{ij} = \sum_l \mathbf{F}_l\, \delta_h(\mathbf{x}_{ij} - \mathbf{X}_l)\, \Delta s_l
  1. 流体更新:un+1=un+Δt(+f/ρ)\mathbf{u}^{n+1} = \mathbf{u}^n + \Delta t\,(\dots + \mathbf{f}/\rho)

ポイントは、補間と拡散が同じカーネル δh\delta_h を使うことです。この対称性が運動量保存を自動で担保します。

Orange dots are Lagrangian markers traced along the circle. The cyan halo is the total spreading weight Σl δh(x − Xl) on each Eulerian cell. Increase markers until the band is uniform — that is the rule of thumb Δs < h.

マーカーが少なすぎると円周に隙間ができます。経験則は Δsl<h\Delta s_l < h、マーカー間隔が格子より細かいこと。64 個まで上げるとバンドが均一になります。

100 行 IBM — 円柱まわり一ステップ#

import numpy as np
 
def peskin4(r):
    # 4点正則化デルタ (Peskin 2002)
    a = np.abs(r)
    w = np.zeros_like(r)
    m1 = a < 1
    m2 = (a >= 1) & (a < 2)
    w[m1] = (3 - 2*a[m1] + np.sqrt(1 + 4*a[m1] - 4*a[m1]**2)) / 8
    w[m2] = (5 - 2*a[m2] - np.sqrt(-7 + 12*a[m2] - 4*a[m2]**2)) / 8
    return w
 
def spread_force(F_l, X_l, ds, shape, h):
    # ラグランジアン力 F_l -> オイラー格子力 f_ij
    nx, ny = shape
    f = np.zeros((nx, ny, 2))
    for l in range(len(X_l)):
        i0, j0 = int(X_l[l, 0] / h), int(X_l[l, 1] / h)
        for di in range(-2, 3):
            for dj in range(-2, 3):
                ii, jj = i0 + di, j0 + dj
                if not (0 <= ii < nx and 0 <= jj < ny):
                    continue
                wx = peskin4(np.array([ii - X_l[l, 0] / h]))[0]
                wy = peskin4(np.array([jj - X_l[l, 1] / h]))[0]
                f[ii, jj] += F_l[l] * wx * wy * ds[l]
    return f
 
def interp_velocity(u, X_l, h):
    # 格子速度 u_ij -> マーカー速度 U_l
    nx, ny, _ = u.shape
    U = np.zeros((len(X_l), 2))
    for l in range(len(X_l)):
        i0, j0 = int(X_l[l, 0] / h), int(X_l[l, 1] / h)
        for di in range(-2, 3):
            for dj in range(-2, 3):
                ii, jj = i0 + di, j0 + dj
                if not (0 <= ii < nx and 0 <= jj < ny):
                    continue
                wx = peskin4(np.array([ii - X_l[l, 0] / h]))[0]
                wy = peskin4(np.array([jj - X_l[l, 1] / h]))[0]
                U[l] += u[ii, jj] * wx * wy * h**2
    return U
 
# direct-forcing IBM の1ステップ
N, h, dt = 32, 1.0, 0.05
nL = 24
theta = np.linspace(0, 2*np.pi, nL, endpoint=False)
R = 8.0
X_l = np.stack([N/2 + R*np.cos(theta), N/2 + R*np.sin(theta)], axis=1)
ds = np.full(nL, 2*np.pi*R / nL)
 
u = np.zeros((N, N, 2))
u[:, :, 0] = 1.0                      # 一様流入速度
U_des = np.zeros((nL, 2))             # 静止円柱 = no-slip
U_l = interp_velocity(u, X_l, h)
F_l = (U_des - U_l) / dt
f = spread_force(F_l, X_l, ds, (N, N), h)
u_new = u + dt * f / 1.0
print(f"max |u| inside cylinder: {np.abs(u_new[12:20, 12:20]).max():.4f}")

一ステップだけで円柱内部の速度がほぼゼロまで落ちます。実際のシミュレーションでは圧力ポアソンと粘性項が要りますが、IBM の核心 — 補間・計算・拡散の三拍子 — はこの 30 行に入っています。

境界がぼやける代償#

Peskin のオリジナル IBM には対価があります。δh\delta_h で一度伸ばすと境界は幅 hh の拡散界面になります。マーカー位置は正確でも、流体が見る壁はわずかにぼやけます。低 Re なら問題ありません。境界層が厚いので埋もれます。しかし Re が大きくなると境界層が格子一マスより薄くなり、ぼやけた壁の上では BL を解けません。

圧力にも振動が出ます。マーカーが格子線をまたぐと強制力は滑らかに変わりますが、圧力ポアソンは微小なリップルを増幅します。剛体の場合 implicit IBM で振動は抑えられますが、毎時刻線形システムを一回余分に解く代価が付きます。

Sharp-interface 系が登場した理由#

この制限から、1990 年代後半以降、不連続強制(discrete forcing)IBM 系が登場しました。Mittal・Iaccarino の ghost-cell IBM、Tseng・Ferziger の cut-cell、Tucker の sharp-interface 系。共通の発想は一つです。δh\delta_h を捨て、境界近傍のセルで直接補間問題を解いて境界条件を正確に課す。

手法長所短所
Peskin 連続強制単純、保存的、変形体も扱える境界拡散、圧力振動
Ghost-cell IBM境界鮮明、高次化可能コード複雑、変形体困難
Cut-cell幾何が正確小さなセルの安定性問題
MLS IBM非一様格子と相性が良い重み計算が高コスト

心臓弁のようなしなやかな膜は今も Peskin 系が自然で、剛体運動 + 高 Re 外部流は ghost-cell が優勢です。両者は競争ではなく分業です。

覚えておく三つ#

  1. 格子に触れない。流体は直交格子、物体は点群。両座標系は δh\delta_h で繋ぐ。
  2. 同じカーネルで往復。補間(E → L)と拡散(L → E)が同じ δh\delta_h を共有する対称性が運動量保存を自動で保証する。
  3. 柔らかい壁の代価。境界は幅 hh でぼやける。変形体には自然、高 Re 剛体には ghost-cell が有利。

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