水は管をどれだけ流れれば放物線になるのか — 助走区間とHagen–Poiseuille
管入口の助走区間、Hagen–Poiseuilleの放物線、摩擦係数64/Re
蛇口を全開にすると、水の筋はしばらく滑らかに保たれます。管の中でも似たことが起こります。入口では水はほとんど壁の存在を感じません。速度分布はほぼ平らです。ところが少し流れると、断面の速度分布は滑らかな放物線に変わります。その間の区間が今日の主役です。
壁が知らせを伝えるのに要する距離
管壁で流体は滑りません(no-slip、壁面での速度はゼロ)。この条件は入口で断面全体へすぐには広がりません。
はじめは壁の近くだけに薄い境界層(速度が急変する壁近傍の層)ができます。流れが進むほど、この層は内側へ成長します。上下の境界層が管中心で出会った瞬間、分布はもう変わりません。この点から先を十分に発達した流れ(fully developed)と呼びます。
入口から発達完了までの距離を助走区間長 といいます。層流では管径 とReynolds数(慣性力と粘性力の比)で決まります。
は断面平均速度、 は密度、 は粘性係数です。 なら助走区間は管径の100倍に達します。細い実験配管で測定位置を誤ると、まだ発達途中の流れを測ることになります。
下のシミュレーションでReynolds数を直接操作してみましょう。
Reを100から2000まで上げると、オレンジの「fully developed」線が右へ押しやられます。入口の平らな分布が放物線に落ち着くまで、より長い距離が必要になります。
発達区間の放物線 — Hagen–Poiseuille#
十分に発達すると、軸方向速度はもう変化しません。、半径方向速度 です。円筒座標の運動量方程式は単純になります。
圧力勾配 は一定です。壁で 、中心で を課し、二回積分します。
は管半径、 は中心からの距離です。結果はすっきりしています。中心速度はちょうど平均の2倍です。この放物線がHagen–Poiseuille流れです。
圧力はなぜ一定の割合で下がるのか — 摩擦係数
放物線を断面で平均すると、平均速度と圧力勾配が直接つながります。
勾配が一定ということは、圧力が管に沿って直線的に下がるという意味です。この損失を無次元にまとめたのがDarcy摩擦係数 です。
層流の摩擦係数はReynolds数だけで決まります。管の粗さは入り込みません。下でReynolds数を動かし、摩擦係数曲線上の点を移動させてみましょう。
の区間で点は の直線を正確になぞります。しきい値を越えると曲線が折れ、別の法則へ乗り換えます。
2300というしきい値 — 層流から乱流へ#
がおよそ2300を越えると、滑らかだった流れが乱れます。渦が混じり、乱流へ遷移します。
乱流では助走区間が短くなります。 はおよそ10〜60にとどまります。層流の100倍と対照的です。その代わり摩擦は大きくなります。滑らかな管の経験式の一つがBlasiusの式です。
指数が から へ緩やかになります。Reynolds数を上げても摩擦は以前ほど速く下がりません。同じ流量をより大きな圧力で押す必要があります。
Pythonで再現する助走区間長と摩擦#
小さな配管を一つ、数値で追ってみましょう。
import numpy as np
def entrance_length(Re, D):
# 層流の水力学的助走区間長 [m]
return 0.05 * Re * D
def poiseuille_profile(r, R, u_mean):
# 十分に発達した層流速度分布 (Hagen-Poiseuille)
return 2.0 * u_mean * (1.0 - (r / R) ** 2)
def darcy_friction(Re):
# 層流の摩擦係数 (Re < 2300)
return 64.0 / Re
D = 0.02 # 管径 [m]
rho, mu = 1000.0, 1e-3
u_mean = 0.08 # 平均速度 [m/s]
Re = rho * u_mean * D / mu
print(f"Re = {Re:.0f}") # Re = 1600
print(f"助走区間長 = {entrance_length(Re, D):.2f} m") # 1.60 m
print(f"中心速度 = {poiseuille_profile(0, D/2, u_mean):.3f} m/s") # 0.160
dpdx = -32 * mu * u_mean / D**2
print(f"圧力勾配 = {dpdx:.2f} Pa/m") # -6.40 Pa/m
print(f"摩擦係数 f = {darcy_friction(Re):.4f}") # 0.0400直径2 cmの管なのに、助走区間長は1.6 m。管径の80倍です。実験台の短い配管は、ほとんどが発達途中の流れを扱っています。
次に管内流れに出会ったら
管内流れの本質は「壁の情報が中心までしみ込む過程」です。三つだけ残しましょう。
- 入口区間では分布が変わり続けます。助走区間長は まで伸びます。
- 十分に発達した層流は放物線です。中心速度は平均の2倍、摩擦係数は 。
- で遷移します。乱流は発達が速いが摩擦が大きい。
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